Products DNA -ものづくりの系譜-

グッドデザイン賞「おもいでばこ」のデザインについてデザイナーが語る。

「すべてのおもいでをここに。振り返るひとときと共に。」をコンセプトに、家中の写真・動画を一元管理。テレビはもちろんスマホやタブレットでも手軽に鑑賞できる「おもいでばこ」が、日本で唯一の総合的デザイン評価・推奨の仕組みである「グッドデザイン賞」を受賞しました。開発に携わった二人のメンバー、根本将幸と古畑直紀から、デザインに込められた想いを聞きました。

── この度、現在4代目となる「おもいでばこ」がグッドデザイン賞を受賞しました。まずは2011年に初代「おもいでばこ」が誕生した経緯を教えてください。

根本 : 初代の「おもいでばこ」が誕生した背景には、時代の動きが大きく関わっています。デジタルカメラの隆盛に伴い、写真を「撮る」文化は急速に成熟をしてきました。老若男女を問わず、誰もが簡単に質の高いデジタル写真を撮影できる時代になったんです。
しかしながら、「見る」文化はまだまだ未熟。手軽に、たくさんの写真を撮影できるにも関わらず、データをパソコンに保存するならまだいい方。撮影したきり、SDカードやコンパクトフラッシュに格納したまま、見返すことも少ない方が大勢いらっしゃるという現状がありました。せっかくの「写真・動画=おもいで」も、見返すことがなくては宝の持ち腐れですよね。
「おもいでばこ」はそうした課題に対するソリューションとして、デジタル写真を手間のかかるパソコンで見るのではなく、テレビで手軽に鑑賞しようという、新たな写真文化の提案を具現化したものです。
既存のバッファロー商品にはなかった「パソコンに接続しなくても使える」商品であり、無機質なパソコン周辺機器とも違う「おもいでを振り返る」という、ある種「エモーショナル」で独特な世界観を持った商品です。
現在の「おもいでばこ」は4代目。スマホやタブレットへの対応をはじめ、代を重ねるごとにさまざまな機能が加わりデザインも操作性もあらゆる面でブラッシュアップされてきました。ですが商品のコンセプト、込められた想いは、「すべてのおもいでをここに。振り返るひとときと共に。」、変わらずこのキャッチコピーに集約されていると考えています。

── 最新機種である4代目「おもいでばこ」の筐体デザインにおけるコンセプトはなんだったのでしょうか?

古畑 : 実は開発のスタートから明確にコンセプトを打ち立てていたわけではないんです。4代目「おもいでばこ」は、ソフトウェアを更新することでバージョンアップしてきた3代目までとは違い、初めてソフトウェアとハードウェアの両面をリニューアルした機種です。
デザインするにあたってわかっていたことは、タブレットベースのハードウェアを使うことが決まっていたので、筐体を小さくできるということ。そして、搭載するチップも高速化され、格段に性能が向上するということ。こうした点からまずは手掛かりとして、小さな筐体にぎゅっとパワーが凝縮されているイメージとしての「ソリッド感」の演出は筐体をデザインする上でキーワードでした。
ただし「おもいでばこ」のデザインがバッファローの他の商品と違って難しい点が、単にシャープでパワフルなデザインを採用して先進的なイメージを打ち出せば良いわけではないということです。

根本 : そう。打ち合わせの中で何度も「おもいでばこ感」という言葉が出たね。

古畑 : 抽象的なイメージを具体的なプロダクトデザインに落とし込むのはデザイナーの腕の見せ所なのですが、この「おもいでばこ感」をデザインに落とし込むのは特に難しかったです。
2011年の初代発売から、「おもいでばこ」はこれまでのパソコン周辺機器を中心としたバッファロー商品のユーザーとは違った層のお客様から愛されてきました。そうしたお客様と育んできた「おもいでばこの世界観」をいかに崩さずに「ソリッド感」を出していくのか。この点が4代目「おもいでばこ」をデザインするにあたっての課題であり、やりがいでした。

── 具体的にはどういったアプローチでその課題を解決に導いたのですか?

古畑 : 大きくは2点あります。側面と天面がつながる角の部分。今回の「おもいでばこ」では、この部分に丸みを持たせるのではなく鋭くエッジを際立たせ、側面を光沢、天面をマットと素材感を変えることによって更にエッジを強調しています。加えて、正面から見ていただければわかるように、全体をティアドロップ(涙のしずく)形状にしました。ちょうど女性の両手で包み込まれているようなイメージの曲線です。エッジによって「ソリッド感」を、ティアドロップ形状によって「おもいでばこの世界観」が持つ「やさしさ」の部分を表現しています。

根本 : こうした商品は排熱のこともシビアに考えなくてはならないのですが、ティアドロップ形状を採用することで、テレビラックの壁面そばにおいてもエアフローが確保されるという利点があります。これは私の自宅での実体験でもあるのですが(笑)

── 筐体をデザインするにあたって、苦労した点を教えてください。

古畑 : 今回の「おもいでばこ」では、表面になるべく「パーティングライン※1(以下PLと表記)」と呼ばれるプラスチック樹脂の接合部分が出ないように工夫しています。少し専門的な話になりますが、「おもいでばこ」のように穴のある形状の筐体を製造する場合、穴を開けるための横に動く金型と、筐体全体を形作る上下に動く金型を同時に動かさなくてはなりません。ですがそうするとどうしても筐体の目立つ箇所に「PL」が出てしまうんです。そこで、今回の「おもいでばこ」では、「PL」を出さないよう横の金型を先に抜き、その後上下の金型を抜くという2段階の工程に分けました。当然コスト的には苦しい判断ではあるのですが、「ソリッド感」と「おもいでばこ感」を表現するために、どうしても「PL」をだしたくなかったんです。ほんのちょっとしたことなんですが、こうした細かなこだわりの積み重ねが、商品から醸し出されるたたずまいを左右するんです。

根本 : ロゴについてもずいぶん話し合ったよね。

古畑 : ロゴの位置にも苦慮しました。筐体がコンパクトになったことで、正面にロゴスペースが取れなくなりました。ですが、それだとユーザーがもっとも目にする機会の多い正面にロゴが見えません。結果として「おもいでばこ」らしさが希薄になってしまう。根本さんと何度も話し合い、最終的には当初正面にあった電源スイッチを天面に移動させることでロゴスペースを確保しました。しかも電源は入れやすいように、天面と正面の境目のぎりぎりのところに設置しています。

根本 : これは非常に「おもいでばこ」らしいエピソードだと思いますね。「おもいでばこ」らしさという「世界観」を守るために設計すら変更する。

古畑 : 「おもいでばこ」の開発って、バッファローの社内でも少し特殊なんです。他の商品ならいったん決まったことはなかなか変えることはできません。ですが「おもいでばこ」では何度もチームで話し合い、場合によっては少し後戻りすることになっても最適な答えを選ぼうじゃないかという風土がある。コミュニケーションにかかる負荷は当然高くなりますが、チームとして納得値の高い仕事になっています。

根本 : 今までのバッファローにはなかったタイプの商品ですから、プロジェクトの進め方にセオリーがないんです。「おもいでばこ」の開発では「世界観」という雲をつかむようなイメージを形にすることが重要になります。だからこそ、プロジェクトの進行では「共感」を大事にしています。多少コミュニケーションに手間がかかったとしても認識を共有し、目線を合わせることができれば、頼もしいプロフェッショナルが結集したプロジェクトチームですから、それぞれが専門とする視点から素晴らしい提案が出てきます。
こういったプロジェクトの進め方は、当初社内でも「ほんとに大丈夫なの?」と怪訝な見られ方をしていたんじゃないかなと思います。ですが最近では全社的なミーティングで「『おもいでばこ』のようなプロジェクトにしたい」という発言もしてもらえるようになってきました。多少は社内での市民権を得てきたのかなと少し安心しています(笑)

※1 金型と金型を合わせた部分の線

── 「おもいでばこ」ではパッケージデザインにもこだわっている印象があります。

古畑 : 3代目の「おもいでばこ」は「アルバム」をコンセプトとして、紙のアルバムのように平たいブック型の横に長い形状のパッケージを採用していました。4代目は、その考え方を発展させ「宝箱」というパッケージングのコンセプトを打ち出しました。ご購入いただいたお客様に、「おもいでばこ」を「家に連れて帰る」ことまで楽しんでいただけるようなパッケージにしようと考えたんです。

根本 : 3代目「おもいでばこ」もそうだったのですが、4代目「おもいでばこ」のパッケージングでも「箱で説明するのはやめよう」と決めていました。お客様が雑誌やカタログ、インターネットで「おもいでばこ」について知り、お店まで足を運んでくださる。そこで「おもいでばこ」のパッケージを目にした際に、「ぜひ連れて帰りたい」、「持ち帰りたい」と思えるデザインにしてほしいとオーダーをしました。これは初代「おもいでばこ」の発売から4年経過し、ある程度マーケットでの立ち位置を確立できたことのアドバンテージだと思います。マーケティング的な意味合いでも、今回のパッケージデザインでは「認知」や「興味」といった要素を極力省き、「ギフト感」を押し出していこうと決めていたんです。

古畑 : 今回のパッケージでは本体やケーブル類、説明書といった内容物を、縦に積み上げる構造にしています。これはコンセプトである「宝箱」らしさを表現するとともに、女性でも持ち帰りやすい形状にしたかったからなんです。「おもいでばこ」は代を重ねるごとにユーザー層が広がり、今ではお子様の成長を記録したいと願うたくさんのお母様からも愛される商品となりました。だからこそ、そうしたお母様方がご自宅に「おもいでばこ」を迎える際にも、負担なく気持ち良くお迎えいただけるデザインにしたかったんですよ。これまでのバッファロー商品にはないアプローチではありましたが、成果は出せていると思っています。

── 4代目「おもいでばこ」がグッドデザイン賞を受賞した感想を教えてください。

古畑 : 個人的なことで言えば、グッドデザイン賞の受賞自体は初めてではないんです。ただ、今回がいままでの受賞と違ったのは、単に筐体やパッケージのデザインに関する評価ではなかったという点です。写真を見返すという端的な機能に特化してデータの取り込みから管理、表示方法といった一連のフローがわかりやすく自然にデザインされていることが評価の対象となっていました。プロダクトをトータルデザインで評価されたことはほんとうにうれしかったです。

根本 : 実は最初、古畑から受賞の一報を聞かされたとき、プロジェクトチームとしては「お、そうなのか」くらいの感想だったんです。ですがよく話を聞くと、商品のコンセプトから操作方法、筐体の外観に至るまでのトータルなデザインで評価していただいたという。この受賞理由を聞いたことでチーム一同喜びは何倍にも膨らみましたね。おもいでを大切にするたくさんのみなさまに、「写真・動画=おもいで」を手軽に振り返るひとときを提供する。「おもいでばこ」が貫いてきた、いわば「世界観」が評価されたのですから。この「世界観」を守り、育てるためにプロジェクトチームが一丸となって取り組んできた努力が報われたと感じました。これからも「おもいでばこ」は代を重ねていくことになります。ですが、どれだけ時代が変わっても初代から継承してきたこの「世界観」は崩すことなくものづくりをしていきたいですね。この「世界観」は私たちバッファローの社員だけで生み出したものではなく、「おもいでばこ」を愛してくださるたくさんのお客様と共に育んだものですから。

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