全教室の無線LANアクセスポイントを入れ替え、1人1台のスマートデバイスを活用したICT授業に対応 教育研究機関無線LAN「eduroam」を小学校で国内初導入

大阪教育大学附属平野小学校 様

国立大学法人大阪教育大学 情報処理センター助教 尾崎拓郎氏(左 以下、尾崎助教)、附属平野小学校長/社会科教育講座教授 峯明秀氏(中央 以下、峯学校長)、同副校長 丸野亨氏(右 以下、丸野副校長)

国立大学法人 大阪教育大学(以下、大阪教育大学)附属平野小学校(以下、平野小学校)では、2016年10月に35台の無線LANアクセスポイント「WAPM-1750D」を導入。既存の無線LANアクセスポイントと入れ替えることで、全教室で1人1台のスマートデバイスを活用したICT授業を実施できる環境を整えました。また教育研究機関を対象とした国際無線LANローミング基盤「eduroam」に日本の小学校で初めて対応。導入後の授業研究発表会では、各教科でスマートデバイスを活用した公開授業を実施。通常授業においてもスマートデバイスを積極的に活用し、教育課程・指導方法の開発を進めています。

取材協力

国立大学法人大阪教育大学 情報処理センター

概要

「未来を『そうぞう』する子ども」を育成

多台数同時接続と「eduroam」への対応

大阪教育大学の附属小学校として、ICT教育の研究開発を推進

先進的なICT教育導入を推進する平野小学校

先進的なICT教育導入を推進する平野小学校

平野小学校は、国立大学法人大阪教育大学が設置・運営している11の附属学校園の一つ。大阪府柏原市に位置する国立の小学校です。明治33年(1900年)に、大阪府女子師範学校附属小学校として開校。昭和42年(1967年)に現在の学校名になりました。在籍する児童の育成のみならず、国立の教育大学の研究機関として、全国の小学校教育向上のための教育課程や指導方法の開発を行っています。

平成28~31年度には文部科学省研究開発学校の指定を受け、「未来を『そうぞう』する子ども」という主題のもと、研究を進めています。また平成28~29年度にはパナソニック教育財団の実践研究助成特別研究指定を受け、「子どもが主役になる次世代の学び~BYOD※社会に対応するスマートデバイスの効果的な教育的利用~」をテーマに、ICT教育における先導的な役割を担うべく、スマートデバイスを活用した授業を推進しています。

BYOD(Bring Your Own Device)社会:一人一人が自分のICT機器を持ち込んで活用する社会のこと

多台数同時接続に加え、「eduroam」にも対応したWi-Fi環境を構築

国際無線LANローミング基盤「eduroam」

「eduroam」は、大学教育研究機関のキャンパスで無線LANの
相互利用を実現する国際無線LANローミング基盤

平野小学校では、BYOD社会の到来を見据え、1人1台のスマートデバイスを活用したICT授業の研究を本格的にスタートしました。その際、既設の無線LANアクセスポイントでは、予定していた授業に対応できないことが判明。校内ネットワークを見直し、多台数同時接続に対応した無線LANアクセスポイントの導入を決定しました。

見直し計画においては、クラス全員が一斉にスマートデバイスを使用できるという条件とともに、教育研究機関を対象とした国際無線LANローミング基盤「eduroam」への対応も考慮して機器を選定。「WAPM-1750D」の採用により、平野小学校の教員と児童だけでなく、教育関係者や教育実習生など来校者の利便性にも配慮した、高機能なWi-Fi環境を構築しました。

大阪教育大学附属平野小学校

大阪教育大学附属平野小学校 様

明治33年(1900年)に、大阪府女子師範学校附属小学校として開校。昭和42年(1967年)に現在の学校名になった。2016年の全校児童数は642名。学校教育目標は、「ひとりで考え 人と考え 最後までやりぬく子」。自然教室や臨海学舎、野外学習、保護者の参画学習、地域との交流など、子供たちに多様な学びの機会を与えるカリキュラムを研究するとともに、多くの教育実習生を受け入れ、教育者の育成にも力を入れている。

所在地

〒547-0032 大阪府大阪市平野区流町1丁目6番41号

電話

目標・課題

従来の無線LAN環境で起きたトラブル

従来の機器を活かすか、新しい機器に入れ替えるか

教員と児童だけでなく、来校者にも配慮した無線LANを

1人1台のスマートデバイスを使った授業で予期しなかった問題が発生

平野小学校では、約20年前にMacintoshとインターネットを導入し、授業に活用。ICT社会に対応できる人材育成に力を入れてきました。当時のインターネット回線はISDNでしたが、時代の変遷とともにブロードバンド化を進め、2012年にはWi-Fiを導入。OHC(書画カメラ)、電子黒板、タブレット等を活用したICT教育の研究を進めてきました。

2016年には、ICT教育の研究は飛躍的に進み、児童に1人1台のスマートデバイスを持たせ、動画やアプリを活用する授業スタイルが注目されるようになりました。平野小学校でも児童に1人1台、計35台のデバイスを使って研究授業を実施しましたが、ここで予期しなかった問題が発生しました。クラス全員が同時に動画を再生したところ、通信が不安定になり、動画が再生できなかったり、再生中に止まってしまうなどの症状が現れたのです。スムーズな授業が行えず、研究授業を中断。事態を重く見た峯学校長は、すぐに校内ネットワークの見直しを検討することにしました。

アクセスポイントのみを入れ替え、既存の配線をそのまま活用

情報処理センターの尾崎助教

ネットワーク見直し計画の立案は
情報処理センターの尾崎助教が担当

大阪教育大学の教授でもある峯学校長は、大学のネットワークを管理している情報処理センターの尾崎助教に、ネットワーク見直し計画の立案を依頼しました。平野小学校のWi-Fi環境を確認した尾崎助教は、アクセスポイントを追加することで、この問題を解決できるのではないかと考えました。

「アクセスポイントの台数を増やして、1台にかかる負荷を軽減できれば、通信が安定するはずだと考えたんです。この方法なら従来のアクセスポイントを活かせるし、導入コストも安く抑えられます。しかし台数を増やすためには、その分配線を増やさなくてはなりません。配線工事の手間と費用を考えると、アクセスポイントをより高性能なものに入れ替え、既存の配線をそのまま使った方が有利だという結論に達しました。」

来校する教育関係者に配慮し、「eduroam」への対応を検討

峯学校長

「eduroam」対応の必要性について語る峯学校長

尾崎助教がアクセスポイントの追加ではなく、入れ替えを選択した理由はもう一つあります。峯学校長から「eduroam」対応にしたいという追加の要望があったのです。峯学校長は、尾崎助教とともに計画を進める過程で、大阪教育大学も参加している国際無線LANローミング基盤「eduroam」を、平野小学校にも導入すべきだと考えるようになりました。

「『eduroam』は、世界80カ国で利用されている教育関係者向けの国際無線LANローミング基盤です。参加機関のメンバーは世界各国の参加機関に設置されたWi-Fiを自由に使うことができ、また毎回ログインする必要がないため、自分の研究室で仕事をする時と同じ感覚でインターネットを利用できます。当校では教育実習や公開授業が行われていますので、外部の教育関係者が頻繁に来校します。その時に『eduroam』を利用できれば、非常に便利になると考えたんです。『eduroam』は、BYOD社会への対応をテーマにしている当校の方針にも合致します。日本の小学校で『eduroam』に対応するのは、おそらく当校が初めてですし、実現すれば良い前例になると考えました。」とその理由を語る峯学校長。従来のアクセスポイントでは複数のSSIDにおける個々の認証に対して切り替える事ができなかったため、従来の平野小学校のSSIDに加えて『eduroam』に対応させることができませんでした。そのため、研究機関としての『eduroam』対応機器に入れ替えることが見直し計画の必須条件となりました。

解決策

公平通信制御機能を搭載した「WAPM-1750D」

設定・設置工事は業者に依頼せず、学校内で対応

導入商品

法人様向け11ac/n/a、11n/g/b
同時使用 インテリジェントモデル
無線LANアクセスポイント

レイヤー2 Giga PoE
スマートスイッチ
(既存PoEスイッチと併用)

40台の同時接続もストレスなくつながる「WAPM-1750D」の採用が決定

以前に教育IT関連の展示会でバッファローブースを訪れたことがある尾崎助教は、そこで見た「WAPM-1750D」に大きな関心を持っていました。40台のスマートデバイスで同時にストレスなく動画再生ができる「公平通信制御機能」は、まさに平野小学校が求める多台数同時接続に欠かせない機能です。しかし細かな仕様を確認すると、当初はこの商品が複数のSSIDに対して、個々のRADIUSサーバへの認証に対応していないことがわかりました。

「『eduroam』を使うためには、授業で使うSSIDの他に『eduroam』専用のSSIDが必要ですが、『WAPM-1750D』は複数のSSIDに対して、個々のRADIUSサーバへの認証に対応していませんでした。他社商品も調べてみたんですが、多台数同時接続ができ、複数のSSIDにそれぞれ異なるRADIUSサーバーを指定できる商品は、どれもコストが高いものばかり。どうしたものかと考えあぐねていました」

そんな時にバッファローから、「WAPM-1750D」のファームウェアアップデートの一報が入りました。このアップデートで複数のRADIUSサーバーを指定可能になったことを知り、すぐに動作検証用の商品を手配。研究室で数日間の検証を実施した結果、問題なく導入できることがわかり、「WAPM-1750D」の採用が決まりました。

「WAPM-1750D」は各教室の後方出入り口付近に設置

「WAPM-1750D」は各教室の後方出入り口付近に設置

校内職員が設置工事を行うことで、導入コストを大幅に軽減

校長室に設置された「WAPM-1750D」

校長室に設置された「WAPM-1750D」。
壁に直接取り付けるのではなく、壁に取り付けた板に
機器を設置することで、今後の機器の入れ替えに配慮した

平野小学校には大工経験のある用務員が勤務していたため、古いアクセスポイントの撤去と「WAPM-1750D」の設置は業者に依頼せず、すべて用務員が対応することになりました。「WAPM-1750D」の設定は尾崎助教が担当。研究室で35台の設定を行った上で平野小学校に送り、設置の指示と動作チェックを行いました。

電源については、既存のPoEスマートスイッチを流用予定でしたが、従来の機器と比べて2倍の消費電力が必要になったため、「BS-GS2016P」を3台追加設置することで対処しました。こうして導入コストを抑えながら、全教室に多台数同時接続可能なWi-Fi環境を構築し、最新のICT教育を実施する準備が整いました。

平野小学校のネットワーク構成図

平野小学校のネットワーク構成図

効果

授業支援アプリを活用した授業を実施

スマートデバイスを活用した公開授業

大阪教育大学のネットワークにも対応

Wi-Fiへの不安がなくなり、教員が授業に集中できる環境に

丸野副校長

「WAPM-1750D」導入後は
教員の不満の声が聞こえなくなったと語る丸野副校長

「WAPM-1750D」の導入により、平野小学校では1人1台のスマートデバイスを活用した研究授業が再開されました。通常の授業においても、これまでのようにWi-Fiに負荷をかけないように気遣う必要がなくなり、心おきなくWi-Fiを使った授業を行えるようになったと、丸野副校長は語ります。

「当校では、以前から『ロイロノート』という授業支援アプリを使って授業を行っていました。児童が自分の考えをまとめたり、発表したり、教員が添削をして返却したりと非常に便利なツールです。動画再生ほど重くはありませんが、以前のWi-Fi環境では遅延が起きることもあり、できるだけ負荷をかけないように工夫していました。今回のリニューアルでその必要がなくなり、教員が授業に集中できるようになりました。」

「ロイロノート」の他にも、教員の質問に児童がスマートデバイスで回答したり、アンケートをとったりすることができる「PingPong」など、様々なアプリを活用した授業が行われています。

クラス全員が同時にスマートデバイスを使える環境

クラス全員が同時にスマートデバイスを使える環境が整った。低学年の授業では持ちやすいiPod touchを使用

実験の様子をタブレットで撮影、動画を見ながらグループワーク

実験の様子

実験の様子を撮影し、繰り返し確認することで、
実験結果をより深く検証することが可能になった

2016年11月30日に行われた授業研究発表会では、外部の教育関係者を招いて、社会科・国語科・未来そうぞう科・体育科・理科の5教科でスマートデバイスを活用した公開授業を行いました。

理科の授業では、社会科の授業で学んだ「淀川のつけかえ」をテーマに、川の洪水について調べる野外実験を実施。盛り土に曲がりくねった川を作り、そこに水を流すことで、どんな場所でどのようにして洪水が起きるのかを調べました。児童たちは、水を流す前の川の様子を観察しながら、洪水が起きそうな場所を推測して旗を立てた後で、実際に水が流れ、洪水が起きる様子をタブレットで撮影。教室に持ち帰り、自分たちで撮影した動画を見ながら、グループワークや発表を行いました。従来のWi-Fi環境では実施できなかった、動画を活用した授業によって、水の浸食・運搬・堆積による土地の変化の理解を深めるとともに、問題意識を醸成することができました。

Wi-Fi環境の整備は、BYOD社会に対応していくための第一歩

複数のRADIUSサーバーを指定可能になったことにより、授業用・eduroam用のSSIDとは別に、大阪教育大学のネットワークに接続するためのSSIDを設定。教育実習のために来校した大学生が、大学の環境と変わらずWi-Fi環境を利用することができ、大学の情報を確認したり、作成済みの授業計画や資料などを利用できるようになりました。また一般の訪問者や災害時の被災者向けにゲストポートを開放することも可能になりました。

多台数同時接続だけでなく、様々な機能を持たせたWi-Fi環境の意義について、峯学校長は次のように語ってくれました。

「今後は1人1台のスマートデバイスを使った授業が当たり前になっていくと思います。ただし、必要な数のデバイスを購入しても、数年で旧モデルになってしまうため、学校が常に最新機器を揃えるのは困難です。それは会社でも同じだと思います。これからは自分が持っているスマートデバイスを学校や会社、店舗、公共施設など、行った先のWi-Fi」につないで活用する時代、いわゆるBYOD社会がやってくると考えています。今回のWi-Fiリニューアルは、ICT教育を実施するためのインフラ整備であるとともに、当校がBYOD社会に対応していくための第一歩だと考えています。」


取材後記

平野小学校では、ICT教育について説明する際に「タブレット」ではなく「スマートデバイス」という言葉を使っています。峯学校長から、学校や会社で個人所有の機器を活用する「BYOD社会」の説明を伺い、その理由がよくわかりました。今後はパソコンやタブレットだけではなく、スマートフォンが学校の授業に使われる時代がやってくるかもしれません。そうした可能性もふまえ、教育現場に関する様々なニーズを採り入れながら、ICT教育に役立つ商品づくりを進めていきたいと思います。


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