安定した多台数同時接続を実現する無線LAN環境で「Google for Education」のサービスをフル活用。授業改善にとどまらず、課外活動へのICT活用が生徒の主体性を育てることにも貢献。

静岡県立掛川西高等学校 様

静岡県立掛川西高等学校 ICT推進委員長 吉川牧人氏(以下、吉川教諭)

静岡県立掛川西高等学校(以下、掛川西高校)では、平成30年3月に以前から導入されていた68台のタブレットを授業に活用するため、全校生徒と全教員を対象に「Google for Education」のアカウントを取得。Googleが提供する様々なサービスを活用するためのネットワーク設備として、すべての教室に無線LANアクセスポイント「WAPM-2133TR」を設置しました。授業のみならず課外活動も含め学校生活環境全般のICT化に取り組んでいます。

概要

質実剛健、文武両道を旨とする、静岡県有数の進学校

無線LAN導入と「Google for Education」を軸にした独自のICT化計画

グローバルハイスクール研究指定校として、英語教育の研究を推進

かつて“東海の名城”と呼ばれた掛川城の麓にある掛川西高校

掛川西高校は、静岡県掛川市にある公立高校。明治34(1901)年に開校し、100年以上の歴史を持つ伝統校です。国公立大学や難関私立大学に多くの合格者を輩出する進学校であるとともに、部活動にも力を入れており、野球部、弓道部、陸上競技部、自然科学部、吹奏楽部、音楽部等、多くの部が全国大会に出場しています。

近年はさらにグローバル教育にも力を入れており、県グローバルハイスクール研究指定校として、海外短期留学や英語フォーラム、イングリッシュキャンプ等も実施しています。また静岡大学による英語教育の実証研究に拠点校として協力しており、英語4技能統合型授業※に取り組んでいます。

毎週水曜日には「クリエイティブ・タイム」と呼ばれる総合的な学習の時間を設け、読書や学校の歴史、地域の歴史の研究等を通じて、生徒の発信力を育てています。平成29年12月から3度、生徒有志による「掛川城プロジェクションマッピング」を開催するなど、生徒の自主性を大切にしています。

英語4技能統合型授業

文部科学省では、グローバル化に対応した英語教育改革を推進しており、その一環として、2020年に開始予定の大学入学共通テストで、「聞く」「話す」「読む」」「書く」の4技能を評価することを検討している。これを受けて、多くの高校・中学で、4技能を組み合わせて学習を行う統合型授業の研究・実施が進められている。

校舎の改修に合わせて

掛川西高校は、平成28年度に静岡大学による英語教育の実証研究拠点校に選ばれ、新たにICT機器が導入されたことをきっかけに、最新のICTを活用した授業についての情報収集を開始。平成28~29年度にかけて実施された校舎の改修に合わせて、授業および学校生活への「Google for Education」の活用を軸にした独自のプランを計画。県との綿密な協議を経て、平成30年度に計画を実現。学校生活全般へのICTの活用を実現しました。

静岡県立掛川西高等学校

明治34(1901)年に、静岡県立掛川中学校として開校。学制改革により、昭和23(1948)年に静岡県立掛川第一高等学校となり、翌昭和24(1949)年に静岡県立掛川西高等学校と改称された。スローガンは「鍛えよう若き日を」。質実剛健、文武両道を旨としており、県内有数の進学校として、毎年、東京大学をはじめとする難関大学に多くの生徒を輩出している他、野球部が過去9回の甲子園出場を果たすなど、部活動にも力を入れている。政治・経済・文化・学術・スポーツ等の幅広い分野で、数多くの卒業生が活躍している。

所在地

〒436-0054 静岡県掛川市城西一丁目1番6号

電話

目標・課題

教員の異動とともに廃れていたICT化推進

県のICT化計画とは別に独自の導入計画を実施

国や県によるICT化推進の流れに戸惑っていた教員たち

掛川西高校のICT推進委員長として、
計画の中心的な役割を担った吉川教諭

掛川西高校では、8年ほど前に地元企業の支援を受けて教育のICT化に取り組んだことがありました。プロジェクター、電子黒板、書画カメラと10台のiPadを導入し、授業への活用を開始。当初はある程度の実績を残し、ICT活用の事例として報告されていましたが、吉川教諭が同校に赴任した5年前には、そうした取り組みはすっかり影を潜めていました。

「教員の異動とともに、いつの間にか廃れてしまったんですね。機器はあるのに、操作の仕方がわからない。ICTを活用した授業はあまり行われていませんでした。iPadは箱も開けられていない状態。もちろん国や県によるICT化推進の流れは耳にしていましたが、うちの学校でそんなことができるの?という懐疑的な空気が漂っていました。」(吉川教諭)

目標としていた授業を実現するために、県教委と何度も協議

そんな中、掛川西高校は平成28年度に「静岡県グローバルハイスクール」の研究指定を受け、静岡大学との連携による英語4技能統合型授業の研究を開始しました。また研究用のツールとして、新たにプロジェクター(10台)、Apple TV(10台)、無線LANアクセスポイント(3台)とiPad(55台)などのICT機器が導入されました。それらの管理・運用方法を検討することが、今回のICT導入のきっかけになったといいます。

「支給された機器を目の前にして、これはなんとかしなくてはいけないと。それで他校を視察したり、『eラーニングアワード フォーラム』に参加し講演を聞くなど、先進事例の研究を始めました。私自身も、教育へのICTの活用について本格的に勉強を始めたのはそこからなんです。ちょうど平成29年度に向けて校舎の改修計画が進んでいましたので、それに合わせて無線LANなど情報インフラの施工も実施しようということになりました。」(吉川教諭)

一方、静岡県では、全ての県立高校に無線LANを導入する計画が進んでおり、掛川西高校にも平成30年度の導入が予定されていました。「県からの支給を待つという選択肢もありました。しかし県の計画で導入される予定の無線LANアクセスポイントの台数では、私たちが目標としていた形式の授業を行うには十分ではありませんでした。そこで当校独自の導入計画を検討しました。」(吉川教諭)

解決策

検証動画や他校の実績を参考に「WAPM-2133TR」を選定

導入商品

11ac/n/a & 11n/g/b同時使用
法人様向け
無線LANアクセスポイント

無線LANシステム
集中管理ソフトウェア

選定の決め手は、多台数同時接続時の安定性と管理のしやすさ

無線LAN導入に際して最も重要視したのは、つながりやすさ、通信の安定性だったと吉川教諭は話します。「私たちが目標としていた形式の授業とは、1人1台もしくは1グループ1台にタブレットを配布し、動画サイトやGoogle Earthなどのリッチコンテンツを活用したアクティブ・ラーニング授業です。その実施には、大きな通信負荷に耐えられる性能を持つ無線LANアクセスポイントが必要です。バッファローの『WAPM-2133TR』を選んだ一番の理由は、そういう使い方を予め想定して開発された商品だということですね。1台の『WAPM-2133TR』に接続された80台のタブレットで一斉にネットワーク上の動画をバラつきなく再生する検証動画もバッファローから公開されていますし、 先進校での導入実績も多数あったので、安心して選びました。」(吉川教諭)

「また、仕様書を作っていくうちに、管理のしやすさが重要だということもわかってきました。メーカーによっては、管理用の専用機器を必要とする商品もありましたが、バッファローの商品はパソコンにインストールしたネットワーク集中管理ソフトウェア『WLS-ADT』から一元管理ができる。そこも大きなポイントでした。国内・海外の他社商品やバッファローの下位モデル等も含め比較検討した上で、この機種が一番だと考えました。」(吉川教諭)

多台数のタブレットで動画サイトなど通信負荷の大きいサービスを同時に活用した授業を想定し、「公平通信制御機能」を搭載したトライバンドモデルの「WAPM-2133TR」を選定。全教室に設置した計30台を、ネットワーク集中管理ソフトウェア「WLS-ADT」で一元管理している

プロジェクター、Apple TV等の映像機器は、必要に応じて
各教室に移動・設置して使用。
今年度中に各教室へ天吊り型のプロジェクターが常設される予定

すでに導入済みだったプロジェクターとApple TVについては、授業のたびに教室に運ぶという方法をとっています。「これは一時的なものです。今年度中に、県から天吊型のプロジェクターと追加のiPadが支給されますので、それを含めてどう管理し活用していくかを、現在検討しています。こうして当校はいち早く先進的な無線LAN環境の導入を実現できたわけですから、他校にも参考にしていただける、県全体のICT計画の役に立てるような事例を提供していきたいと考えています。」(吉川教諭)

効果

アクティブ・ラーニングとICTを融合した授業

「掛川城プロジェクションマッピング」で地域貢献

無線LANと「Google for Education」をイベントの準備に活用

学習のためだけでない、社会生活に役立つICTスキルを身に付ける

自分で情報を集めて、読み取り、選別する力を身に付ける

タブレットを活用することで、生徒たちが自身で情報を収集する力や
情報を読み取り選別する力を身に付けることができる

吉川教諭が担当している世界史では、1クラスを4~5人のグループに分けて、グループ学習を実施しています。無線LAN導入後は、各グループに2台ずつのタブレットを活用しながら、アクティブ・ラーニングとICTを融合した授業に取り組んでいます。

「例えば、『ナポレオン』をテーマに学習する場合、最初にグループ内で既知の情報をとりまとめて発表させます。その後、タブレットで『ナポレオン』をキーワードに検索を行い、インターネット上の関連情報を集めた上で、再度発表させます。さらに動画サイトで関連の動画を見たり、地図アプリで関連施設の写真を見たりすることで、視覚的な情報にも触れ、さらに知識を深めることができます。これまでの講義形式の授業ではなく、生徒が主体の学習を行うことで、自分で情報を集めて、それを読み取り、選別する力を身に付けさせたいと考えています。」(吉川教諭)

吉川教諭の授業では、定期的に5分程度のグループ発表の時間も設けています。「一度に1グループずつ、様々なテーマで発表させています。テーマはこちらが提示する時もあれば、自分たちで考えてもらう時もあります。発表方法については特に指導はしていませんが、スマホやタブレットの無料アプリで動画を作るなど、それぞれに工夫しながら発表の準備をしています。動画を作る作業は高校生の中でブームにもなっていますから、みんな積極的に取り組んでくれます。調べる係、資料を作る係、発表する係など、グループ内で分担しながら発表の準備を進めることで、プレゼンテーションのスキルと、主体的に物事に取り組む姿勢を身に付けさせたいと考えています。」(吉川教諭)

地図アプリでも関連の場所や施設の情報を確認。
文字情報だけでは得られない立体的な知識が身に付く。

定期的に実施されている5分のグループでのミニ講義。
年度の最後にはグループで作る世界史動画の発表も実施。

プロジェクションマップイベントを通して、ICTの様々な活用を体験

平成29年12月23日に開催された
「掛川城プロジェクションマッピング」には、
地元住民をはじめ1000人以上が訪れ、映像と光の演出を楽しんだ

掛川西高校では授業だけではなく、課外活動へのICTの活用も積極的に行っています。生徒が作成した動画を城壁へ投影する「掛川城プロジェクションマッピング」もその一環です。タブレット授業の開始に先立ち、生徒向けの講習会を実施。外部講師を招き、タブレットの基本的な使い方から、学習・発表・イベント等への活用方法をレクチャーしました。そこで紹介されたプロジェクションマッピングの活用事例に、一部の生徒が興味を持ち、地域貢献のために取り組みたいという声が上がったことから企画されました。

「当校が掛川城のすぐ隣にあることから、天守閣の城壁や本丸広場の斜面などを使ったプロジェクションマッピングのイベントを開催しようということになりました。生徒たちが有志で実行委員会を作り、外部講師の指導を受けながら、様々なアプリを活用して投影する動画や音楽を作成するなど、約2ヶ月かけて準備をしました。講師とのやりとりにはビデオ会議アプリを、実行委員同士の情報共有にはメッセージアプリを使い、動画製作以外の部分でもICTを活用。さらにSNSで活動の様子を公開するなど、広報活動にも積極的にICTを活用しました。イベント当日は1000人以上の方にご来場いただき、この活動はマスコミにも取り上げられ、活動をまとめた動画は『しずおか学生動画アワード2017』でグランプリを獲得しました。」(吉川教諭)

無線LANによる「Google for Education」の活用でイベントの準備を効率化

掛川城プロジェクションマッピングは好評を博し、平成30年2月23日・3月31日にも開催することになりました。またダンス部の3月公演でもプロジェクションマッピングを使った演出を行うことになり、実行委員会は引き続き製作に取り掛かりました。

「製作のタイミングとおなじくして無線LANの設置工事が完了し、第2弾の製作は無線LANとタブレットを活用することで、より効率的に準備を進めることができました。また無線LAN導入と合わせて『Google for Education』の運用を開始したのですが、これが大変役に立ちました。グループで役割分担し、共同作業で作品を制作したのですが、作業ファイルをGoogleドライブで共有することで、無線LANにつながっている校内どこでもグループ間で作業の受け渡しができます。プロジェクションマッピングに使う動画ファイルは容量も大きく、安定した無線LAN環境がなければこのような活用はできなかったでしょう。また、実行委員やダンス部のメンバー間でのファイル共有やスケジュール共有も簡単にできます。2つのイベントの準備を並行して進めるのは大変でしたが、こうしたツールも活用しながら、無事成功させることができました。」(吉川教諭)

平成30年3月23日に開催されたダンス部の定期公演では、
ダンスとプロジェクションマッピングのコラボによる
パフォーマンスを披露した

平成30年3月31日には、「掛川城プロジェクションマッピング」
の第2弾を、「掛川桜まつり」のアトラクションとして実施した

卒業後にも役立つICTスキルを身に付けられる経験を。

「今の子供たちは“デジタル・ネイティブ”と呼ばれていますが、実際にはSNSや動画視聴など受け身の使い方ばかりで、意外に知らないことが多いんです。でも刺激を与えれば、すごい勢いで知識を得ようとするし、アイデアも出てくる。教師が勉強して教える必要はなく、環境を用意してきっかけを与えればいいんです。さらに当校では、授業だけでなく学校生活全般にICTを活用していくことが重要だと考えています。『Google for Education』の導入もその一環。このサービスは、『Google Classroom』で情報交換をする、『Googleフォーム』でアンケートを取る、ドキュメントやスプレッドシートで協同作業をするなど、学校生活の様々なシーンで活用できます。また、これらのサービスは学校専用のものではなく、一般に利用されているものですので、学校生活で身に付けたスキルは高校卒業後にも役立ちます。社会生活に役立つICTを身に付けられる環境が、これからの学校には必要だと思います。」(吉川教諭)

吉川教諭は、保護者とのコミュニケーションにもICTを活用していきたいと考えています。「中部地方のある自治体では、ICTを活用して保護者の視点から学校を良くしていこうという活動が行われています。これは非常に興味深い取り組みで、教員とPTA役員とのオンラインミーティングやグループウェアアプリを使った情報共有など、当校でも実施したいと考えています。もしPTAの運営自体へのICT活用が実現できれば、保護者同士の情報交換や啓蒙がさらに容易になります。すべてを学校が管理するのではなく、ある部分は生徒に任せ、ある部分は保護者に任せ、お互いにコミュニケーションをとっていく。それがこれからの学校のあるべき姿ではないかと考えています。」(吉川教諭)


取材後記

取材中、吉川教諭が何度も口にしたのが「主体的」という言葉でした。講義を受けて学ぶのではなく、生徒自らが調べ、考え、行動する。そうすることで、時には教員の予想を超える成果が現れると言います。わずか2ヶ月ほどで必要な技術を学び、イベントを成功させた「掛川城プロジェクションマッピング」は、そうした成果の一つと言えるでしょう。吉川教諭は「生徒の進化が学校の進化」ともおっしゃっていました。掛川西高校の新たな取り組みはまだ始まったばかり。今後のさらなる進化が楽しみです。


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