災害対策事業の一環で観光施設に公衆Wi-Fi環境を整備。施工にWi-Fiを活用し約600万円のコストダウンにも成功
北海道中川町 様
北海道北部の中川町、天塩川のほとりにある天然温泉の宿泊施設である「ポンピラアクアリズイング」は豊かな自然を体感できる道北観光の拠点として国内、世界の観光客に利用されています。これまで施設利用者向けのWi-Fi提供は無かったため、併設のオートキャンプ場「ナポートパーク」を含む施設全体をカバーする公衆Wi-Fi環境を整備。「ポンピラアクアリズイング」から「ナポートパーク」へのインターネット回線提供にWi-Fiを利用することで、導入コストを抑えた環境整備を実現しました。
概要
「森林文化の再生」「自然と人との共生」をテーマにまちづくり
宿泊者に提供でき、防災インフラにもなる公衆Wi-Fiの導入を検討
森林文化の再生を目指す中川町
北海道札幌市から300km弱、車で約4時間の距離にある道北の町・中川町は、林業で栄えた町で、面積 59,000haのうち86%を森林が占めています。2017年現在、人口約1,600人の町ですが、林業の全盛期だった昭和38年頃は林業従事者を中心に約7,600人もの人口を抱えていました。現在は、農業、酪農、畑作業に加えて、改めて森林を中心とした産業の創生に挑戦し、「森林文化の再生」「自然と人との共生」というテーマで、魅力あるまちづくりに取り組んでいます。
中川町は稚内市と旭川市のちょうど中間地点にあり、東のオホーツク海と西の日本海へのアクセスの良い場所に位置しています。温泉宿泊施設の「ポンピラアクアリズイング」に併設したオートキャンプ場「ナポートパーク」は、中川町の豊かな森林と、道北の大自然を体験できる施設として設置されました。キャンピングカーでの利用者が多く、毎年5月28日から10月1日までの利用期間には約3,600件の方々が訪れます。両施設ではロードバイクやマウンテンバイクのレンタルも可能で、自転車に乗ってゆっくりと周辺の自然を満喫できる施設づくりに取り組んでおり、国内だけでなく、台湾やタイなど観光客も多く、海外からの集客にも取り組んでいます。
ホテルと屋外施設全体で共通して利用できるWi-Fi環境を
これまで、両施設では一般の施設利用者向けWi-Fiの提供がなく、Wi-Fiを利用したいという宿泊者の声も多かったといいます。また、日本で使えるモバイル回線契約を持たない海外からの宿泊客への通信インフラ提供の必要性なども考慮すると、宿泊者が利用できる無料Wi-Fiの提供は必須でした。
指定避難場所でもあるこの施設は、災害時に必要な通信環境を整える必要もありました。そこで中川町では、平時に観光客に対する利便性を提供でき、災害時には避難者の通信手段として活用できる公衆Wi-Fiの導入を検討しました。
ポンピラアクアリズイング/ナポートパーク
1973年に「ぽんぴら温泉」として開館し、1993年にはポンピラアクアリズイングとしてリニューアルオープン。さらにオートキャンプ場 ナポートパークを併設し、道北の自然観光拠点として充実した設備を誇る。施設裏にはカヌーの練習場、さらに自転車レンタルも開始して、森林観光、サイクルツーリズムを観光の目玉として事業を行っている。
目標・課題
災害時の通信環境のテストケースとしての公衆Wi-Fi環境を整備
国内利用者だけでなく、海外からの宿泊客も含めた観光客への利便性の提供
指定避難場所として、公衆無線LAN整備支援事業を活用
今回の公衆Wi-Fiの整備は、まず災害時の指定避難場所で通信手段を提供する試みとして行われました。同施設は災害時の避難指定場所にも設定されており、光ファイバーは早い段階で整備されていましたが、Wi-Fi環境は整備されていませんでした。
そこで今回、総務省の公衆無線LAN整備支援事業を活用し、災害時に屋外でもインターネットが利用できる環境づくりのテストケースとして、公衆Wi-Fi環境を構築することを検討しました。中川町 産業振興室長の平木氏は「避難施設の収容人数として、ポンピラアクアリズイングは150人、ナポートパークは300人を想定しており、合計450人が無理なく利用できる公衆Wi-Fi環境が必要でした」と語ります。
平時は観光拠点のインフラとして利用できる通信環境を
Wi-Fi環境整備には、災害時のための対応という目的とともに、平時にオートキャンプ場の利用客や海外からの宿泊客に提供できる通信環境づくりという目的もありました。「中川町は近年、サイクルツーリズムの誘客を狙った観光町づくりをしています。その中で利用客、特に海外からのインバウンド対応のためにも、Wi-Fiの設置が必要と考えていました」と平木氏。道北の観光拠点として、各地へ行く前に情報を検索して調べるなどするためにも、インターネット環境は不可欠です。特に海外からの利用者に関しては、Wi-Fiを使った通信環境が提供されることが、非常に有意義なシステムになると考えたといいます。
しかし、これらの問題の解決を中川町から依頼され、企画を担当した有限会社コピーセンターグローバルの泉谷氏によれば、その通信環境の実現にあたって検討課題が多かったといいます。「現地調査時にはまだキャンプ場にWi-Fi設備を設置した実績もなく、しっかり電波が届くのか懸念がありました。また、キャンプ場の景観を壊さないようにすることなども考え、Wi-Fi機器を屋外設置するための鉄柱の代わりに自然の木を模した「擬木」を複数立てる案もあったのです。そのため1,600万円程度の工費を想定していました」。
解決策
施設二拠点をリピーター機能(WDS)を使って無線接続
安定性を高めるため、リピーター機能(WDS)送受信専用の機器を用意
屋外用機器を防護ボックスに収納。厳しい自然環境への対応に工夫
導入商品
2拠点間をリピーター機能(WDS)を使って接続
設置方法の検討と機器選定のために、バッファローによる電波環境調査が行われました。その結果、最適な配置をすれば、キャンプ場内に構造物や擬木などを追加することなく、施設全域にWi-Fi網を張ることができることがわかりました。
この調査結果から、それまで想定していたナポートパークのセンターハウスに光ファイバー線を引き込む工事をしなくとも、ポンピラアクアリズイングから無線LANアクセスポイントの「リピーター機能(WDS:Wireless Distribution System)」を活用して、無線でアクセスポイント間を接続できることがわかりました。ホテルの壁面とナポートパークのセンターハウスに「WAPM-1266WDPR」を設置してリピーター機能(WDS)でつなげば、センターハウスへの光ファイバー回線の引き込み工事をすることなくキャンプ場のWi-Fi環境を整備することが可能になります。これにより、ナポートパーク側の「WAPM-1266WDPR」をホテル側のネットワークに追加する構成でWi-Fi環境を構築することが可能になりました。
ポンピラアクアリズイングとナポートパークセンターハウスの間の距離は約40m。この間をWAPM-1266WDPRのリピーター機能(WDS)を使って接続した
リピーター機能(WDS)の送受信専用機を用意して通信の安定性を確保
「一番注意したのは、ホテル側とキャンプ場側の通信部分をどうするかということです」と泉谷氏。実際には、リピーター機能(WDS)の送受信専用機を用意しました。センターハウス側には2台の「WAPM-1266WDPR」が並んで設置されています。リピーター機能(WDS)を使った機器間無線接続の安定性を確保するために、そのうち1台をホテル側からの電波の送受信専用機としたのです。送受信専用機からPoE対応スイッチ「BS-GS2008P」へ接続、そこからセンターハウスの軒下に設置された屋外用の「WAPM-1266WDPR」とセンターハウス屋内用の「WAPM-1750D」に接続され、必要なエリアのWi-Fi環境をカバーしています。PoE対応スイッチを使ったことで電源や配線の工事も抑えることができました。
ホテル内の設備に関しても、同じように「BS-GS2008P」を使ってPoE接続で配線を行いました。客室部分には各階に3台ずつの「WAPM-1166D」が設置され、客室内のどこでも快適なインターネット接続が利用できます。
屋外機には全て防護ボックスを用意。厳しい自然環境に備える
屋外設置機器の耐久性能も重要なポイントでした。「WAPM-1266WDPR」は防水/防塵で動作保証温度は-25℃から55℃。耐腐食性もあり、高い耐環境性能を持っています。設置に際してはさらに、全て防護ボックスに収納し、万全の対策を施しました。「豪雪地帯で積雪量は2mにもなります。設備が埋もれるほどの雪が積もり破損させてしまうことがあるのです」と平木氏。
自然に囲まれた地であり、虫や鳥類など野生動物が接触することで電子機器トラブルが起こる可能性もありましたが、その問題も防護ボックスによって解消できました。中川町全域にある光ファイバー設備にも、全て防護ボックスが使われているそうです。
設置された防護ボックスは本来空いている穴とは違う部分に小さく穴を切ってアンテナを出し、できる限り外部から異物の侵入を防ぐ工夫もされています。
効果
リピーター機能(WDS)の利用で回線工事を抑え、大幅にコスト削減
今後はさらに公衆Wi-Fiのエリアを拡大することも検討
光ファイバー回線の引き込み工事が不要になったことで約600万円も工費削減
ナポートパークとポンピラアクアリズイングがWi-Fiで接続できたことで、ナポートパーク側への光ファイバー回線の引き込みが不要になりました。また当初検討されていた無線LANアクセスポイント配置のための擬木設置などの付帯工事は、屋外への設置に対応した「WAPM-1266WDPR」をセンターハウスの適切な場所に配置することで不要になり、PoEを使った電源供給のおかげで電気工事も最小限に抑えることができました。
結果、工事期間は当初の予定より大幅に短縮され、発注から1ヶ月あまりで全ての施工が完了。当初約1,600万円を想定していた総工費も1,000万円程度まで抑えられ、約600万円も削減することができました。
海外からの宿泊客にも好評。今後に期待
取材時点では、公衆Wi-Fi設備が完成してまだ20日あまり。ナポートパークは9月末で今シーズンの営業が終了し冬季休業となるため、本格的な運用は来シーズンからになりますが、すでにタイやシンガポールからの宿泊客から、Wi-Fiを利用できるということで好評をいただいたとのことでした。
今後はさらに広域のWi-Fi整備も視野に入れ、災害時の通信手段の確保のみならず、公衆Wi-Fiとして来訪者も利用できるような設備を検討していくそうです。
取材後記
取材前は、大自然の中で過ごす場所でなぜ公衆Wi-Fiの提供を始めようと考えたのかという疑問がありました。しかし、災害時の通信手段として、さらに道北の観光拠点として、情報の検索性が必要なことや海外からの利用者のインバウンド対応を考えると、確かにインターネット環境は必要なものかもしれません。