魚沼市内の市立小中学校12校に防災Wi-Fi設備を導入。災害発生時に“情報が得られない”ことへの不安を払拭

新潟県魚沼市 様

魚沼市教育委員会 学校教育課 学務班 係長の須佐光行氏(左)と、
魚沼市教育委員会 学校教育課の遠藤江見子氏(右)

新潟県魚沼市では、2018年3月、総務省が策定した「防災等に資するWi-Fi環境の整備計画」の補助を受け、市内にある12校の市立小中学校に防災Wi-Fi設備を導入。平常時は無料でインターネット接続が利用できる公衆Wi-Fi「FREESPOT(フリースポット)」として活用し、災害発生時には情報収集や安否確認などを行いやすくする通信環境として機能する「00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)」へと迅速に切り替えられる仕組みが整備されました。今後、市民と魚沼市を訪れる来訪者の利便性向上、そして有事の際の安全を支える重要な基盤となることが期待されています。

取材協力

NECネッツエスアイ株式会社

概要

大自然の恵みに育まれた、風光明媚な新潟県魚沼市

かつての被災経験から学んだ“情報が得られない”ことへの不安

大自然の恵みあふれる新潟県魚沼市

越後三山を臨み、豊かな自然に囲まれた魚沼市

かつて新潟県の北魚沼郡に属していた、堀之内町/小出町/湯之谷村/広神村/守門村/入広瀬村の6つの自治体が、2004年11月1日に合併して誕生した魚沼市。南には越後三山(越後駒ケ岳、中ノ岳、八海山)がそびえ、市内の8割以上を森林が占める大自然の恵みに育まれた地域です。28年連続で国内最高評価「特A」認定を受けたブランド米「魚沼産コシヒカリ」の産地であり、その美味しいお米と水を活かし、日本酒銘柄「緑川」や「玉風味」などがあることでも知られています。また、冬には積雪が3メートルを超える豪雪地域としてスキー客で賑わいを見せるほか、市内にある温泉施設の数々、さらには品質・生産量ともに日本一と評価される高級ブランドであるユリの切り花なども有名です。

被災経験が物語る防災Wi-Fiの重要性

魚沼市では2015年に、市内の各庁舎や図書館などの公共施設において、無料でインターネット接続が利用できる公衆Wi-Fi「FREESPOT(フリースポット)」を導入。市民および、魚沼市を訪れる来訪者の利便性向上に努めてきました。これらは震災をはじめとした有事の際に、情報収集手段として活用できるものです。しかし一方で、避難所・避難場所に指定された防災拠点となる学校は、Wi-Fi設備が未整備のままでした。

防災Wi-Fiの重要性について、魚沼市教育委員会 学校教育課 学務班 係長の須佐光行氏(以下、須佐氏)は語ります。
「2004年10月に発生した新潟県中越地震では、当地域でも最大震度6弱を観測し、周辺集落は壊滅的な被害を受けました。電話が一切通じないことに加えて、崩落などにより高速道路はもちろん幹線道路も封鎖。外界との通信手段が完全に断たれ、情報不足で震源地すら把握できないという状態でした。また、被災した地域住民の方々は体育館などの避難所で長期間にわたり避難生活を余儀なくされましたが、当時はまだスマートフォンも普及しておらず、張り紙などによる情報伝達に限界を感じました。さらには被災者の方々だけでなく、救助活動にきていただいた方々にも適切な情報をお伝えすることができず、ご迷惑をおかけしてしまいました。」

また、2011年3月に発生した東日本大震災でも防災Wi-Fiの必要性を痛感したといいます。「東日本大震災では、新潟県中越地震のような直接的な被害こそ出ませんでしたが、市外から数多くの避難者を受け入れた際、避難所に防災Wi-Fiの設備がなかったのが悔やまれます。」と須佐氏。

注意が必要な天災は地震だけではありません。魚沼市は自然が豊かな半面、もともと水害が多い地域であることも大きく影響しています。最近では2017年7月に、豪雨の影響で魚沼市内を流れる三用川の堤防が約40メートルにわたり決壊するなど、市内各地の500棟以上で床上・床下浸水が発生し避難所を開設する事態になっていました。こうした背景から、防災拠点となる学校に、Wi-Fi環境を設備し、災害時の通信インフラを強化することになったのです。

新潟県魚沼市

対等合併で行財政能力に優れた自治体を構築し、「人と四季がかがやく雪のくに」を基本理念に新しい時代にふさわしいまちづくりを目指すべく、2004年11月に誕生した魚沼市。「人が集い、学び、支え合うまち魚沼市」を将来像に、住民の知恵や行動力を結集し、住民と行政の協働で自主・自立のまちづくりを進めてきた。教育委員会 学校教育課では、教育行政の企画調整から教育に関する事務の管理・点検・評価、通学区域・通学対策、児童生徒・教職員の健康診断・保健衛生、学校施設の整備・維持修繕に至るまで、教育に関するあらゆる業務を手掛けている。

所在地(学校教育課)

〒949-7494 魚沼市堀之内130番地(堀之内庁舎)

電話

目標・課題

補助金による支援で防災Wi-Fiの整備に関する計画を前倒し

ネットワークの設計から施工までを安心して任せられる事業者選び

総務省による防災Wi-Fiの設備計画が後押しに

「総務省の補助により、当初の予定よりも前倒しで防災Wi-Fi設備の
導入検討を開始できた」と須佐氏

魚沼市では市内における公衆無線LAN設備の充実を図るべく、2016年1月に「魚沼市ICT推進計画」を策定。「インターネット利用環境の整備」および「災害時における情報通信環境の整備」を重点施策に掲げました。同年6月に、公衆無線LAN設置経費の2分の1(上限30万円)を市が補助する「魚沼市公衆無線LAN設置支援事業」を開始するなど、積極的な取り組みを行ってきました。また同年10月には、「魚沼市立学校情報教育推進計画」を策定。「社会の変化に対応した学校ICT環境の整備」の中で「教師用タブレット端末の導入」「プロジェクタまたは大型テレビの導入」「無線LAN整備」などを目指し、教育現場における無線LAN導入も推進しています。

魚沼市がこうした計画を進める中、同年12月に総務省が平成29年度から31年度までの3ヵ年における「防災等に資するWi-Fi環境の整備計画」を策定。防災Wi-Fiの整備に関する補助金が受けられるようになりました。そこで魚沼市では、これに合わせて当初進めていた計画を繰り上げ、避難所・避難場所に指定されている市立小中学校12校の体育館および運動場への防災Wi-Fi設備の導入について検討を開始したのです。校内設備への設備導入であるため、本件は魚沼市教育委員会 学校教育課が主導しました。

事業者選定は信頼と実績を重視

Wi-Fi設備の基本構想、基本設計を依頼する事業者の選定に関しては、安心して任せられるよう、特に信頼と実績を重視しました。その結果選ばれたのが、市のネットワーク保守管理を請負っていたNECネッツエスアイ株式会社(以下NECネッツエスアイ)です。

NECネッツエスアイは、NECグループのネットワーク通信工事およびシステムインテグレーションにおける中核会社です。同社では企業や通信事業者、官公庁、そして社会インフラ事業者までさまざまな顧客に対し、幅広い情報通信システムをSIから施工・サービスまで一貫して提供。魚沼市内の公共施設に対する「FREESPOT」導入も含めて、これまで培ってきた信頼と実績、そして優れた技術力も高く評価されたそうです。

解決策

豪雪による影響など、地域環境や利用目的に応じて機器を設置

災害発生時に「00000JAPAN」へと迅速に切り替えられる一元管理体制を構築

利用者の利便性を考えて認証環境を既存の「FREESPOT」と統一

導入商品

11ac/n/a & 11n/g/b同時使用
防塵・防水耐環境性能 法人様向け
無線LANアクセスポイント

11ac/n/a & 11n/g/b同時使用
法人様向け
無線LANアクセスポイント

公衆Wi-Fiサービス「フリースポット」導入キット

ネットワーク管理ソフトウェア

環境や利用目的に応じて最適な設置場所を検討

導入先である魚沼市立宇賀地小学校で「豪雪地域という観点から、
雪に埋もれてしまわないような設置場所を選んだ」と語る
NECネッツエスアイの岸氏

魚沼市からの依頼を受け、NECネッツエスアイでは、12校の小中学校に対して電波環境調査を実施しました。この調査では、総務省の補助を受けるにあたり、周辺の公衆Wi-Fiから電波が入らないエリアであることを確認しつつ、補助対象となる体育館と運動場のエリア全体をカバーできる設置場所について検討を行ったそうです。

NECネッツエスアイ株式会社 東日本システム事業部 甲信越第二システム部の岸望氏(以下、岸氏)は「運動場に関しては、防水仕様の屋外用無線LANアクセスポイントを採用するのはもちろん、豪雪地域という観点から雪に埋もれてしまうことがないよう、地面からの高さを十分に考慮しました。一方の体育館については、球技などでも使われるため、ボールが当たって破損しないように考慮しました。」と、環境や利用目的に応じた対策ポイントを語ります。

合併を経験した魚沼市ならではのネットワーク構成

ネットワーク構成についても、魚沼市の現状に合わせて作り込まれました。魚沼市は6つの自治体が合併して誕生したため、現在でもそれぞれエリアごとに庁舎が分かれています。そこで今回の防災Wi-Fiシステムでは、まず管理および情報発信の基点となる情報センターと各庁舎を接続。そこから魚沼市が所有する既存の光ケーブル網を介して、各小中学校へ分岐するという方法を採用しました。各小中学校ではL2スイッチでネットワークを分岐後、「PoE」(Power over Ethernet)経由で運動場の屋外用無線LANアクセスポイントと、体育館の屋内用無線LANアクセスポイントへと接続しています。

費用対効果の高さと既存「FREESPOT」との親和性

商品の選定理由について、岸氏は次の様に述べています。「まず第一に、バッファロー商品は他社商品と比べて費用対効果が非常に高い、という点が挙げられます。屋外用無線LANアクセスポイント『WAPM-1266WDPR』は動作保証温度が-25℃から55℃で、防水/防塵は『JIS-2137』で定められた『IP55規格』対応、そして耐腐食と、運動場で使用するのに十分な性能を有しています。屋内用無線LANアクセスポイント『WAPM-2133TR』については、2.4GHz/5GHz(W52/W53用)/5GHz(W56用)という3つのアンテナを備えるトライバンドで多台数同時接続時の高速通信を実現した、ICT化が進む学校に最適な法人向けモデルです。さらにいずれの商品も、気象・航空レーダーなどの干渉があった際に自動で干渉のないチャンネルへ切り替える『DFS(Dynamic Frequency Selection:動的周波数選択)障害回避機能』や、Wi-Fi以外の機器から出るノイズを自動で検知・回避する『干渉波自動回避機能』を搭載しており、安定した通信を実現できます。また、これらの商品は、『FS-R600DHP』の『ゲートウェイモード』動作確認済機器ですでに市内の公共施設で提供している『FREESPOT』と同じ認証が可能だったことも重要なポイントでした。」

魚沼市立宇賀地小学校の体育館に設置された屋内用無線LANアクセスポイント「WAPM-2133TR」

同校の運動場に設置された屋外用無線LANアクセスポイント「WAPM-1266WDPR」。降雪を考慮して高い位置に設置されている

有事の際は「00000JAPAN」へと迅速に切り替え

こうして防災Wi-Fiを主眼に整備された通信環境ですが、平常時は市内の公共施設で提供している「FREESPOT」と同じく、各小中学校の運動場と体育館を使用する一般の団体にも開放しています。そこでNECネッツエスアイでは、平常時に「FREESPOT」として開放しつつも、災害が発生した際には12校の公衆無線LANを災害時統一SSID「00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)」へと迅速に切り替えられるよう、情報センターにネットワーク管理ソフトウェア「WLS-ADT」を導入。一元管理が行える体制を構築しました。

魚沼市教育委員会 学校教育課の遠藤江見子氏は「公共施設の『FREESPOT』では、電波を24時間開放していると深夜や早朝などでも人が集まってきてしまうため、『無線スケジューラー』機能を使って公共施設が開館している時間帯のみ利用可能にしています。こうした設定も、情報センターからまとめて行えるのが助かりますね。平常時のSSIDとパスワードについては、利用者の利便性を考えて既存の『FREESPOT』と統一してもらいました。」と語ります。

なお、「FS-R600DHP」の「ポップアップテクノロジー機能」により、平常時にWi-Fiへアクセスすると魚沼市の食と観光の総合Webサイト「うぇる米魚沼」が最初に開き、有事に「00000JAPAN」へと切り替えた際は災害対策用のWebサイトが開くような仕組みとなっています。

魚沼市のネットワーク構成図

効果

市の補助対象経費の3分の2が総務省補助金として交付

今後はアクセスログによる利用率の算出なども実施

災害時の不安を払拭するために防災Wi-Fiは必要不可欠

低予算で理想的な防災Wi-Fiの整備を実現

こうして魚沼市では、市内にある12校の小中学校に対して、各1台ずつの屋外用無線LANアクセスポイント「WAPM-1266WDPR」(計12台)、各1台ずつの屋内用無線LANアクセスポイント「WAPM-2133TR」(計12台)、エリアごとに各1台の公衆Wi-Fiルーター「FS-R600DHP」(計6台)、そして情報センターに対してネットワーク管理ソフトウェア「WLS-ADT」の導入を決定。2017年8月末から翌年3月末にかけて、防災Wi-Fi導入の施工が行われました。

魚沼市は、総務省が策定した「防災等に資するWi-Fi環境の整備計画」の中でも、財政力指数が0.4以下かつ条件不利地域の市町村にあたることから、費用に関しては補助対象経費である約2560万円のうち、3分の2に相当する約1700万円の補助金が交付されました。バッファロー商品の費用対効果も相まって、低予算で理想的な防災Wi-Fiが整備できたと須佐氏は評価しています。

災害時の不安払拭に必要不可欠な防災Wi-Fi

魚沼市立宇賀地小学校の体育館にある「FREESPOT接続ガイド」

こうして魚沼市の無線LAN環境が整備されましたが、利用者がそれを知って活用されることがもちろん大事になってきます。市民に対する防災Wi-Fiの周知については、魚沼市の公式Webサイトや体育館内の張り紙、地方新聞などを使って行われました。

「導入後に『Wi-Fiがつながらない』といったトラブルや不具合の報告は一切なく、大変満足しています。現在は業務権限などを情報センターへ移行している最中のため、アクセスログによる利用率の算出などが行えていませんが、今後はそうした部分も進めていきたいですね」と、展望を語る須佐氏。最後に「大規模災害の発生時には、“情報がない”ということが大きな不安につながります。こうした不安を取り除くためにも、防災Wi-Fiは必要不可欠な存在といえるので、まだ導入されていない市町村でも検討を始めてみてはいかがでしょうか」と、メッセージを送ってくれました。


取材後記

ブランド米「魚沼産コシヒカリ」や日本酒銘柄「緑川」「玉風味」などは全国に広く知られていますが、それらを育んでいる雄大な自然そのものが魚沼市の貴重な財産だと感じました。越後三山のひとつである越後駒ケ岳、市内を流れる幾筋もの美しい河川、そして自然が織りなす四季折々の表情。魚沼市は、こうした大自然の恵みを五感で味わえる地域です。こうした自然の豊かさがあるからこそ、表裏一体である天災への対策として、防災Wi-Fiが必要になるわけですね。皆さんもぜひ、この感動あふれる魚沼市を訪れてみてください。


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